経済戦略会議

伊藤元重教授ら起用

民間の声政策に活かす

 政府は18日の閣議で、小渕恵三首相の直属機関である「経済戦略会議」のメンバー10人を正式に決定した。本学からは伊藤元重教授(46)と竹内佐和子助教授(46)の二人が起用された。経済・景気対策の立案に当たって民間の意見を積極的に取り入れ、首相官邸主導で経済政策を機動的に運営するのが狙い。日本経済の再生策や21世紀の豊かな経済社会の構築に関する構想などを検討し、年内もしくは今年度中に首相に意見を具申する。

 経済戦略会議は国家行政組織法第八条に基づいて総理府内に設置する諮問機関で、首相が自民党総裁選の際に新政権の目玉として提唱した。当初は首相の私的諮問機関として発足させる構想もあったが、法的根拠のある組織として設置する方が意見具申に重みが出るとの判断から第八条機関とすることになった。
 本学から選ばれた伊藤元重教授は、大学院経済学研究科で国際経済学を専攻。本学経済学部・大学院卒業後、マンチェスター大学で理論経済学を専攻し、ヒューストン大学、東京都立大学勤務を経て、昭和57年本学助教授、平成5年から本学教授を務めている。竹内佐和子助教授は、大学院工学系研究科社会基盤工学専攻で、経済政策を研究している。早稲田大学法学部卒業後、日本大学大学院博士課程、パリ大学大学院法律経済研究科博士課程を卒業し、日本大学講師、パリ大学法律経済学部客員助教授などを歴任した後、昭和63年に国際経営研究所(MIB)副所長に就任した。平成3年からは長銀総合研究所主任研究員を兼務し、今年度から本学助教授に転身した。
 陣容が固まったのは17日だが、組織人選は二転三転した経緯があり、期待通りの役割を果たせるかどうかは予断を許さない状況だ。
 当初委員に内定していた牛尾治朗・経済同友会代表幹事、出井伸之・ソニー社長が外れたが、同会議が国家行政組織法第八条に基づく審議会になったことに不満を持つ経済界が、「経済4団体のトップは参加しない」などの立場を取ったことが影響している。出井氏に代わる国際的メーカーの経営者として奥田碩・トヨタ自動車社長の起用が決まったが、ぎりぎりまで調整が続いた。
 議長には樋口広太郎アサヒビール会長が選ばれている。学界からは伊藤教授、竹内助教授のほかに、竹内平蔵慶大教授、中谷厳一橋大教授が参加する。その他のメンバーは、井手正敬JR西日本会長、鈴木敏文イトーヨーカ堂社長、寺田千代乃アートコーポレーション社長、森稔森ビル社長の起用が決定した。
 会議のメンバーは全員民間人だが、宮沢喜一蔵相、堺屋太一企画庁長官ら関係官僚も必要に応じて出席できる。事務局は民間人を中心に約10人で構成され、事務局長には三宅純一日本総合研究所副理事長が起用された。

経済戦略会議のホームページ


アンモナイトが好物?

化石から破片発見

 中生代の海に生息していた大型は虫類「クビナガリュウ(首長竜)」の好物はアンモナイトだったらしい――。本学理学部の棚部一成教授(地質学)とカナダ・カルガリー大学大学院生の佐藤たまきさんらが、北海道で発掘されたクビナガリュウの化石からアンモナイトの破片を初めて見つけ、13日付の英科学誌「ネイチャー」に発表した。
 クビナガリュウは中生代後半に陸上の恐竜と競うように海で隆盛を誇った。海中生活に適応し、首が長くて尾が短く、体は流線型で四肢は船のオールのような形をしているのが特徴。
 棚部教授らは90年に北海道北西部の留萌地方の川沿いのがけにある約9300万年前の白亜紀の地層から化石を含んだ石灰質の塊を発見。これを酸で溶かしたところ、全長3―4mのクビナガリュウのせきつい、尾骨、腹部の化石であることがわかった。有名なフタバスズキリュウ(福島県で発掘)など首の非常に長いものとは違い、首が短く頭が大きいグループに属する、東アジアでは初めて見つかった種だという。化石の量はクビナガリュウ全体の4分の1だった。
 この化石を詳しく分析したところ、胃のところに小型アンモナイトのあごの部分である「カラストンビ」が多数あるのが分かった。アンモナイトは巻貝のような殻を持つが、首長竜にのみ込まれて殻は胃で消化され、消化されないキチン質でできたカラストンビだけが残ったと考えられる。
 棚部教授は「クビナガリュウは何を食べていたかよく分かっていなかったが、今回初めて食生活の一部を知ることができた。クビナガリュウの化石は北海道を中心に多数見つかっており、今後の研究でさらに解明が進むだろう」と話している。


医学部竹島助教授ら

記憶抑える物質発見

 記憶や学習に関係する神経伝達を抑制している脳内物質を、本学医学部の竹島浩助教授(薬理学)らのグループが見つけ、6日付の英科学誌「ネイチャー」に発表した。脳内には学習や記憶にかかわる物質が多くあるが、記憶を抑える物質を見つけたのは初めて。
 竹島助教授らが新たな働きを発見した物質は「ノシセプチン」と呼ばれ、ペプチドというたんぱく質の一種。米国などのグループが最近発見し、これまでに痛覚や聴覚の神経伝達の調節に関係していることが分かっていた。
 竹島助教授らは、脳神経にノシセプチンを受ける受容体が遺伝的に欠落しているマウスを使い、記憶・学習の実験を行った。その結果、普通のマウスに比べ、空間学習能力や長期的な記憶の能力が格段に高いことがわかった。
 また、このマウスの海馬を調べたところ、繰り返される刺激に対して神経の応答が高まる「長期増強」という現象が普通のマウスより強くなっていた。長期増強は脳の記憶メカニズムの基盤と考えられており、ノシセプチンは記憶に関係する神経細胞の活動を高めるグルタミン酸などの物質に対抗して、「記憶しすぎない」ように抑制する働きがあると見られるという。
 竹島助教授は「ノシセプチンが神経細胞の受容体に結合するのを阻害する物質が見つかれば、痴ほう症や記憶障害に有効な、記憶力を取り戻す薬ができるかもしれない」と話している。


宇宙線研

強力宇宙線を観測

ビッグバンの痕跡か

 物理理論で予想されていた上限値を上回る猛烈にエネルギーの高い宇宙線を、本学宇宙線研究所の手島政広助教授らが初めて観測し、米物理学会誌フィジカル・レビュー・レターズ8月10日号に発表した。
 この超高エネルギー宇宙線は計7例に上り、地表1平方km当たり100年にほぼ1回の割合で降ってくることも突き止められた。未知の遠方の天体か、宇宙を誕生させたビッグバンの痕跡の可能性があり、宇宙のなぞの解明につながる発見と注目される。今後、大規模な宇宙線望遠鏡で本格的な観測と解明に取り組む計画だ。
 研究グループは、山梨県北西部の明野村を中心に約800平方kmに展開した世界最大の広域宇宙線観測網で、91年から観測を続け、計7例の超高エネルギー宇宙線をとらえた。いずれもエネルギーは理論で予想された上限値である10の20乗(1兆の1億倍)電子ボルトの2倍前後あった。
 エネルギーが高い宇宙線は直進するが、観測された天空を探しても源となる天体はなかった。研究グループは、瞬間的に高いエネルギーを発する遠方の天体か、ビッグバンの痕跡である熱い空間からの飛来とみている。
 この謎を解明するためには、明野観測所の100倍の観測面積を持つ宇宙線望遠鏡が必要だが、望遠鏡の設計はすでに終わっており、2005年ごろの観測開始を目指して建設を進めていく。


文部省方針

医・歯学部の募集削減

 文部省は来春の1999年度入試から2、3年かけて、国公私立大学の医学部(医学科)と歯学部でそれぞれ募集人員を200人近く減らす方針を固めた。将来の医師余りを防ぎたいという厚生省の意向を受けた措置で、国立大医学部は42校で少なくとも100人減らす見通し。
 この措置を受けて本学医学部も、来年度の入試から募集人員を5名減らし85名となる。その他の京大など3校の国立大学で同じく5名の削減となる。歯学部は東京医科歯科大で10人減らされる。国立大医・歯学部の募集人員の削減はほぼ14年ぶりとなる。
 国立大の医学部で進めている学士入学については、定員の1割程度を学士入学枠に回す方針は変えないため、高校から入学する人数が減ることになる。
 私立大については、募集人員数を減らす権限が文部省にはないため、私立医科大学協会、私立歯科大学協会に削減数の取りまとめを要請している。
 本学の理科3類では、99年度入試から前期試験に面接試験が導入される。


大学院生 関口さんら

アレルギー物質の分布測定に成功

 花粉症のようなアレルギー反応の引き金になる物質が、組織中の細胞表面にどう分布しているのかを、レーザーを使って検出することに本学大学院工学系研究科学生の関口一哉さん、北森武彦教授らが成功し、北海道苫小牧市で開かれた「王子セミナー」で発表した。
 引き金となる物質は免疫グロブリンE(IgE)で、組織中の肥満細胞の表面に分布しており、アレルギーの原因物質(抗原)が結び付くと、肥満細胞から炎症を引き起こすヒスタミンなどの物質が放出される。関口さんらは、IgEと結び付きやすく、金の微粒子を含む物質を、アレルギー患者の鼻から採取した組織と混ぜ合わせ、肥満細胞上のIgEに金を結合させた。これに、金粒子が吸収しやすい波長のレーザーを照射すると、金が付着している部分だけが熱を帯びて膨張する。この変化率を別のレーザーで測定して、IgEの細胞表面への集中度を調べた。
 この方法は生きたままの細胞にも応用が可能で、アレルギー反応の進行解明に向けて役立ちそうだ。


郡司氏

立て看板に「名誉毀損」提訴

 薬害エイズの危険性が指摘され始めた1983年当時に厚生省生物製剤課長を務め、今年3月に本学医学部教授を停年退官した郡司篤晃氏が20日、大学構内に自分を中傷する立て看板を設置され、名誉を傷つけられたとして、本学分子細胞生物学研究所の温品淳一助手を相手取り、3千万円の損害賠償と謝罪文を求める訴訟を東京地裁に起こした。
 問題の立て看板は、96年11月ころから今年3月まで、本郷キャンパスの赤門の前に置かれていた。看板には本学職員で作る「東大職連」の団体名で、「血友病患者1800人『殺人政策』の責任を取れ!」などと、郡司氏を名指しで批判する内容が書かれていた。
 郡司氏側は、「生物製剤課長在職中、早い時期から薬害エイズに危機感を持ち、迅速的確な行政的対応を図ろうとした」とし、「立て看板の内容は虚偽の事実」と主張している。


原子力研究総合センター

実験室で爆発

 18日午後3時半ごろ、東京都文京区弥生の本学原子力研究総合センターの別館(地上3階、地下1階建て)2階の実験室で、技官の森田明さん(46)が実験装置をエタノールで洗浄していたところ、突然爆発して衣服に燃え移った。この事故で森田さんが顔や右腕、左手に軽いやけどを負ったほか、同室していた他の技官一人も髪の毛を焦がした。
 原子力施設を所管している科学技術庁などによると、分解・洗浄していたのはセシウム・イオンを発生する装置で、取り外した部品をビーカーに入れ、エタノールをかけたところ引火し、爆発した。部品内に残っていたセシウムがエタノールに含まれていた水と反応して発火したと見られている。


歴史は語る(22)

大聖寺藩 江戸上屋敷跡地石碑

江戸上屋敷跡地石碑

大聖寺藩所縁の地
史実を後世に残す

 平成10年1月27日、医学部内ベルツ、スクリバ両博士胸像の隣り(医学部図書館裏)において大聖寺藩江戸上屋敷跡地石碑除幕式が執り行われた。
 この石碑は、石川県加賀市長及び加賀市大聖寺まちなみ景観整備委員会会長から本学に対し、現在の医学部附属病院敷地が旧大聖寺藩屋敷跡地であったことに鑑み、その史実を後世に伝えたいという要請から建立された。
 寛永16年(1639)6月20日加賀藩3代藩主前田利常は、47歳の若さで小松に隠居し、嫡子光高に加賀藩80万石を、二男利次に富山藩10万石を、三男利治に大聖寺藩7万石を与え分封した。
 大聖寺藩領は江沼郡全域(133カ村)と那谷村及び能美郡6カ村を加えたものであった。9代藩主都利之の文政4年(1821)、新田1万石に加え、加賀藩から現米2万俵を受け、加賀藩からの願出により幕府から10万石の待遇を公認された。以降14代利 まで、明治四年(1871)廃藩置県により大聖寺県となるまで続いた。
 また、石碑には「一里塚」と書かれた久谷焼の絵皿が埋め込まれているが、久谷焼は初代藩主利治が後藤才次郎に命じ、領内久谷村に窯を築き産出したと伝えられている。
 除幕式は大聖寺まちなみ景観整備委員会の主催で行われ、矢田加賀市長、久藤会長のほか、本学からも青柳副学長、石川医学部長、金澤病院長など、合わせて約150名が参加し盛大に行われ、本学の歴史に新たな1ページを刻んだ。


 この夏、一人の投手が甲子園に伝説を刻んだ。第80回高校野球を制した横浜高校のエース松坂大輔投手だ▼横浜高校の春夏連覇は決して容易な道ではなかった。延長17回の死闘を演じた準々決勝のPL戦。8回から6点差をひっくり返した準決勝の明徳義塾戦。いつ負けても、いつあきらめてもおかしくない状況を、選手たちは驚異的な精神力で乗り越えてきた▼春夏連覇がいかに難しいかは、数多くの優勝校の中でその快挙を成し遂げた高校が、たった5校しかないことがよく物語っている。一度の優勝で目的を失い、あるいは傲慢になることで本来の実力を発揮できなくなるのだろう。しかし横浜の選手は違った▼春の大会が終わった直後から、次なる目標「春夏連覇」を掲げ猛練習に耐えてきた。松坂投手の夏の目標も「春夏連覇、全試合完封」だった。そのどん欲なまでの目的観、向上心が勝利を呼び込んだのだろう▼一つの目標に向かってひたむきに走る高校球児たちの姿は、見ている者をすがすがしい気分にさせる。かつて自分たちにも、一つの目標に向かって脇目も振らず走っていた頃があった。そう、東大合格という目標に向かって。東大合格は一つの勝利と言える。しかし、合格した我々が「春夏連覇」できるかどうかは、これからの姿勢にかかっている。