833号(2001年6月15日号)

OB Special Interview

  前国連広報担当事務次長
  カナダ大使兼国際民間航空機関政府代表部大使

  法眼 健作 氏

 国連とは何か? 国連は必要なのか? 現在、さまざまな疑問が国連に対して投げかけられている。その反面、国際社会に与える国連の影響は決して小さくないという事実もある。今年1月まで国連広報局の事務次長という立場で、まさに現場で活躍されていた法眼健作先輩に、国連の組織、そして国際社会において果たす役割などを聞いた。

紛争解決が一番の問題

法眼 健作 氏

――国際社会における国連の役割とはどのようなものでしょうか?

 国連の存在目的は何かというと、それは言うまでもなく世界の平和と安全を守ることです。その前提となるさまざまな要素、例えば、経済発展や社会の安定、環境問題など、人間の生活に関わるあらゆること、人類が存在するための根本的な要件をどのように満たしていくかということが、国連のもう一つの課題だと思います。
 どこかで紛争が起きたとき、国連がどのように対処するかが世界中の注目を集めるということは、否定できない事実です。国連としても、世界中の叡智と立場を越えた諸国間の努力を結集して、その紛争を収めることに、懸命に努力します。また同時に、その原因とそこに至った過程、そしてその地域における人間の生き様の全体像などを明らかにし、それを改善する努力を日々積み重ねていくことが大切といえます。
 国連の存在意義を考えてみた場合、前者が非常に大きな役割であることは間違いありませんが、同時に後者も、日夜を通じて果たしていかなければならない役割です。例を挙げると、経済問題、資源の確保の問題、水をめぐる問題、人間の基本的な諸要件をめぐる問題などが紛争の大きな原因となっています。皆が満ち足りるようにすることは難しいかも知れませんが、少なくとも争いが起きない程度に調整していくことが、国連が取り組んでいかなければならない大きな課題です。
 日本がいま打ち出しているヒューマンセキュリティ≠ニいう考え方、これがまさに国連の行っていることと一致します。この考えは非常に幅広く、安全保障の面のみならず、基本的な経済発展や民政の安定といったことをも含みます。これらの問題について、先進国は途上国を支援し、途上国は引き続き自助努力を行い、国際機関は自分たちでさまざまなアイデアを出し合いながら、人間が必要とする基本的なものを改善していく努力をしているのです。

――東大生を対象にアンケート調査を行ったところ、国連はどういう組織なのか、実はよく知らないという回答が意外に多く見受けられました。国連の組織について教えてください。

 まず強調したいのは、国連とは加盟国のものだということです。国連は第二次世界大戦後に発足しました。当初、加盟国は五十数カ国でしたが、今では189カ国にも上っています。国連は文字通り諸国の連合体で、あくまでも加盟国が作っているのが国際連合です。他方、加盟国が円滑な活動をするためには、事務局が必要となります。各国から集まる代表団が、きちんと会議ができる組織がなくてはなりません。事務局はそのための組織で、国連発足と同時に作られました。「国連」とは何か、という時、一般にはこれら二つが混同される傾向にあるように思います。
 加盟国は、世界の諸問題について議論します。例えば、紛争の解決や緊張、対立などについてです。各国がこれらの問題を持ち込み、それについて諸国が集まって議論するのですが、この時、問題はまず事務局に持ち込まれるのです。そして議論のための会議の日程などを決め、これを知らせるのが事務総長の役割となります。事務局が国連を取り仕切っているように誤解されることがありますが、自分が行ってみてつくづく感じたことは、国連の主体はあくまでも加盟国だということです。事務局は、加盟国の議論や行事が円滑に行われるよう、全力で手助けをする役目にあるのです。

 今、国連改革ということが叫ばれています。国連では、世界の人間が集まって、世界の諸問題について討議します。国の代表が意見交換を行い、また知恵を出し合って議論する場となるのです。しかし、国連は今から50年以上も前にできた組織です。当時の世界の実態を反映した組織ではありましたが、今の世界を反映した組織になっていないのが、問題とされています。
 その一つ、安全保障理事会を例に挙げて考えてみます。どこかで紛争が起こったときなどに、世界平和と安全について国連内の結論を出す場がこの安保理ですが、果たして今のままの安保理でいいのかという問題があります。例えば、現在では日本やドイツも常任理事国のメンバーとして入るべきだという議論があります。人類の平和はもはや武力だけの問題ではなく、包括的に考えないと永続性のある問題解決になりません。日本は財政的貢献も大きく、安保理で十分力を発揮できると思います。事務局側では、日本を常任理事国へと願っていますが、これは加盟国が決める問題なので、そこで決定を得ないといけません。そのためのさまざまな交渉が行われているのが現状です。
 それから、国連の経費削減に関する問題があります。加盟国が増加したことによって事務局が大きくなりすぎたという見方があります。この問題に関しては、最大の拠出国であるアメリカが最も経費削減を訴えています。しかし、国連の予算は年間18億ドル程度で、日本の国家予算が87兆円であるのと比較してみても、それほど大きな額ではありません。国連は世界の平和と安定、並びに繁栄を求めて、諸国間の代表が集まって会議を行うところで、決議、勧告、宣言等の形で、現れた結果を世界の人々に知らせることがその役目です。そのために必要な経費までも削ろうというのはどうでしょうか。
 完全な世の中というものはありません。知恵を出し合って少しづつでも良くしていくしかないのです。世界で問題が起こったときに、とにかく集まって冷静になって話し合おうという場として国連は必要です。そういう意味では駆け込み寺のような場だともいえるでしょう。世界的次元でみた人類の課題は、先進国と途上国の格差があまりに広がりすぎているということもあります。今後、富める国がITの使用などで更に進み、世界全体のアンバランスが一層拡大することが予想されます。どうやってアンバランスを縮小するかについて考える場が国連なのです。

 国連が行ったアンケートによると、世界のどの地域の国民も自国の政府に覇権を求めてはいません。西洋、欧米なら老齢化、日本なら住居、アフリカなら開発の問題等を解決してほしいと願っている。つまり自分自身の問題にとり組んで欲しいという結果が出ています。途上国にこの傾向が強く、彼らは国連を不満や現状改善を訴える場として非常に頼りにしています。先進国側も事務局側もこれらの訴えを聞かざるを得ません。途上国をどのようにして軌道に乗せ、より良い存在にしていくかが、国連の優先事項です。
 昨年開催された2000年総会での一番の問題意識は、紛争の解決をいかに図るかということともに、この世界で起こっているはなはだしい貧困にどのように対処するかということでした。途上国で起こっている紛争の、大きな原因の一つが貧困です。この問題の解決こそが、これからの国連の、そして国際社会の課題といえるでしょう。
 また、NGOの存在も国連にとって欠くことのできないものです。現代はどの政府、国際機関も自分だけで仕事ができる時代ではありません。NGOの中には、環境・開発問題などの問題に対してかなり以前からその問題について深く掘り下げ、また研究し、そして実績を挙げているところもあります。そういった信頼と実績のある団体を、国連の経済社会理事会、広報局の二つが窓口となり、国連NGOとして認可し、協力してプロジェクトを進めています。現在、約1500以上の団体が国連により認可されています。

――最後に国際舞台で活躍しておられる法眼先輩から、東大生へのメッセージをお願いします。

 これからの時代は国際化時代です。何をやるにしても英語が必要となってくるでしょう。好むと好まざると、英語が国際社会の共通語となっているのが現実です。日本人も英語を使ってコミュニケーションをする時代がきてしまったのです。東大生にはぜひ、英語を第二の公用語にするくらいの心構えで勉強してほしいと思います。完璧な英語を話す必要はありません。極端なことを言えば、最初は単語を並べただけでもいいのです。
 3年間国連にいて実感したことですが、日本人の一生懸命さ、真面目さ、謙虚さは本当に貴いと思います。中でも東大生は、これらの気質を備えた人々が多いのではないでしょうか。17、18の若い時に、目標を定めて決意して、東大に入るための必死な努力をすることから逃げなかった、そしてその目標を果たしたという点で、私は東大生を人間として評価しています。これに加えて、英語が話せるようになれば、今まで積み上げてきた人生にさらに花が開くことでしょう。

 【ほうげん・けんさく】1941年8月2日、東京都生まれ。本学法学部を中退し、ケンブリッジ大に入学。同大を卒業し、64年外務省入省。その後、欧亜局大洋州課長、在米日本大使館参事官、駐ホノルル日本総領事長、中近東アフリカ局長、外務省研修所長などを歴任。98年3月から今年1月まで国連事務次長(広報担当)を務め、4月より駐カナダ大使兼国際民間航空機関(ICAO)政府代表部大使(現職)。現在オタワ在住。


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前国連広報担当事務次長
 法眼 健作 氏

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