889号(2003年5月15日号)

1面主要記事

■星の誕生に新モデル

宇宙初期に大質量星爆発
理学系研究科 梅田研究員ら

 理学系研究科の梅田秀之研究員と野本憲一教授らは、宇宙の初期段階にブラックホールを作るような大質量の星の爆発が数多く起こっていたことを明らかにした。昨年、ほうおう座の赤色巨星「HE0107-5240」が発見されたが、この星が宇宙誕生直後にできた「第一世代」の星でないことを確認する過程でたどりついた結論だという。

新モデル発見のきっかけと
なったほうおう座の赤色巨星
「HE0107-5240」
 従来、宇宙誕生直後にできた「第一世代」の星には鉄などの重い元素が存在しないため、第一世代の星はブラックホールを残さない超新星爆発をし、そこから重い元素を含む第二世代の星が誕生したと考えられていた。
 昨年、これまで観測された中で鉄の含有量が最も少ない「HE0107-5240」という星が発見された。この星は炭素や窒素が非常に多く、また鉄の比率が極めて少ない第一世代の星と近い元素組成を持っているが、マグネシウムやニッケルなどの重元素も少量ながら含まれている。そのためこの星が第一世代の星だとすれば、重元素が星の誕生後に降着したと考える必要があるが、伴星の存在が確認されておらず、また大量の炭素の起源が説明できないなどの問題があった。
 これに対し、梅田研究員らは、「HE0107-5240」が第二世代の星であり、第一世代の超新星爆発によって合成された元素でわずかに汚染されたガスから作られたとの見方を示した。この見方は、第一世代の星の超新星爆発時に重い元素の生成と物質の混合が起き、その後中心部分にブラックホールができ、重い元素の多くがブラックホールに引き戻されるというモデルに基づいている。物質の混合が起こる、ブラックホールに引き戻されるというモデルはそれぞれ考えられていたが、この両者を組み合せたモデルは今回初めて提唱されたもの。
 従来は第一世代の星の超新星爆発後にはブラックホールが残らないという考えが主流だったが、このモデルではブラックホールの生成を前提とすることで、第二世代の星の誕生過程について、重元素含有量の極めて少ない星についても可能になった。


■温暖化防止へ道

 プランクトン増殖に成功

 海洋研究所の津田敦助教授らは、海に鉄分をまき、植物プランクトンを増殖させる実験に成功した。
 鉄分は植物プランクトンの光合成に欠かせないが、北太平洋や南極海、赤道海域で不足しているとされている。そこで津田助教授らは、北太平洋のカムチャッカ沖で、南北8km、東西10kmの海面に約350kgの鉄分を含む硫酸鉄溶液をまいた。その結果、散布5日後ごろから葉緑素濃度が上昇し、10日後には散布前の20倍近くに達した。これは25mプールに耳掻き一杯分の鉄分で植物プランクトンが25倍に増える計算になる。
同様の実験はこれまで欧米の研究者らによって南極海や赤道海域で行われているが、プランクトンの種類が異なることもあり、うまく増殖させることができなかった。
 植物プランクトンは海水中の二酸化炭素を吸収するため、この結果は地球温暖化の防止につながる可能性がある。
 ただ、生態系への影響についてはまだ調査段階で、研究グループではこの点を含め、鉄散布が温暖化対策としてどこまで有効なのか長期的な検証が必要だとしている。


■基礎科学の推進を

 国立大学部長らが提言

 本学の五研究所長の呼びかけにより、全国の大学・研究所長らが文部科学大臣宛に「国立大学等における基礎科学研究の推進について」と題した提言を提出した。呼びかけ人となったのは岡村定矩理学系研究科長、山下輝夫地震研究所長、吉村太彦宇宙線研究所長、上田和夫物性研究所長、小池勲夫海洋研究所長で、大学の研究科長や研究所・センターの所長ら計51人が賛同者として名を連ねている。
 この提言では、基礎科学研究を「人類共通の文化創造の一つであると同時に、将来の産業を支える科学技術の礎」であるとし、これらの分野で優れた業績を挙げ続けるためには競争とともに共同作業が不可欠であるとしている。そこで、@学術政策に関わる新たな組織の必要性、A大学等を横断する基礎科学研究の推進の2点について提言をしている。
 @では、行政的センスがありかつ研究者としての経験を持つ者が中心となった、学術政策の企画立案や研究助成を行うための組織を作り、研究評価、学術政策、研究費の配分などの分野において、専門家集団の意見を取り入れることが必要だとしている。
 またAでは、国立大学の法人化によって「競争」の側面は改善されるが、それにより「共同」で研究を進めるメカニズムがないがしろにされる可能性があることを指摘。その上で、国立大のみならず、大学間の共同研究や大学共同利用機関についても正しく評価し、これらに対しても確実な財源措置を講ずるよう求めている。



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